2013年05月01日
南西諸島航海記 粟国島 ナヴィの島へ
粟国島 ナヴィの島へ
2000年7月13日 晴れ 南の風 波1.5m
晴れた空、柔らかい南風に恵まれ、渡名喜島を意気揚々と漕ぎ出した。独特の形をした粟国島にむかっていく。知る人ぞ知る沖縄の映画、「ナヴィの恋」。沖縄の小さな島を舞台に繰り広げられるラブストーリー(かな?)。その舞台が、この粟国島だ。

ひとめで分かる粟国島へ。
<海上でのトイレはどうしたか>
晴天、視界良好。距離25kmほど。こんな日は向かう島がはっきりみえる。ちょうど奄美空港から喜界島がはっきりみえるのに似ている。爽やかな朝の風で進んでいく。この海域は、特に大きなサメが回遊していると聞いていたので、いつもよりややナーバスになっていた。とりわけ飛び込んでのトイレは絶対にしない。サメは動物の尿の臭いで寄ってくると、海洋危険生物の本でも読んでいたのだ。手を海中にいれてのんびりするにも常に水中に意識をむける。5m近いでかいサメが、実はむこうからは見えるところでこっちを伺っているのではないかと思うと、感覚が一層研ぎ澄まされる。
そこで役だったのがオリオンビールの生ビールカップ。これで小は済ませる。大は、緊張のせいか海の上でしたくはならなかった。数時間漕いでいると、日中の日射しでふらふらしてくる。そこでオリオンと書かれたカップに黄色い液体がたわわに(ちょっと泡付き)注がれると、不覚にもが美味しそう見えてしまう。そんな風に見えたら、変な気が起きる前にすぐに海に捨てよう。
<GPS、だめだこりゃ>
座間味を出る前、GPSを起動した。しかし見えてる島とはずれて方向を指す。誤差はあるのは仕方ないが、それにしても、おやっと思うほどだ。世界紛争がおきると、米軍がわざと精度を落とすと聞いたが、そのせいだろうか。奇しくもこの年は名護で沖縄サミットが開催される。この2日後くらいだったか。世界の要人が沖縄に集まっている。ミサイル攻撃などに警戒していつもよりも誤差が大きくされていた可能性もある。おまけに2重にしていたジップロックは、デッキを洗う追い波であっけなく浸水。GPSはあっという間に動かなくなった。でもおかげでよかったと思う。計器に頼るなと言われたようだ。ぱっと島をみて横断に要する時間を計る能力、体感による進んだ距離の推測能力、迫る危機への直感力などが日に日に磨かれたいったのは、ここでGPSが壊れたおかげだとおもっている。
<旅人に拾われ町へ>
南側の砂浜に上陸すると、海水浴をしている人達がいた。島の人かと思い、声をかけ、町まで行く道を尋ねる。すると那覇からの旅行者の方たちだった。歩いて町へいくと言ったら、とても遠くて大変だといわれ、ちょうど自分たちも引き上げるから送っていってくれることになった。ありがたい。またもや拾われて助けて頂くことに。

偶然上陸地にいらした4人の旅人さんに便乗して町へ。

さとうきび畑をぬけていく。
<水不足に苦しんできた島の歴史>
車で10分も走ったろうか、さとうきび畑をぬけて町に出る。すると、あちこちの家の屋根からパイプが伸び、庭でタンクのようなものにつながっている。貯水タンクだ。シマダスで読んだが、ここは水がとぼしく、昔からトゥージという水を貯める石の器を活用してきた。そして近代的に進化したのがこの雨水運用システムというわけだ。まるで普通にそこら中の家がこうしたつくりになっている。全国的に普及させれば大部分のダムなどを削減できるのではないかと思わずにいられない。

画期的な雨水利用システム

水を貯める石の器、トゥージ。いまでもつかっているのか。
<悪霊を呼んでしまった…?>
私たちは一緒に鍾乳洞など、島を散策。高台からははっきりと渡名喜島が、そしてかろうじて次に渡る伊江島が見える。映画にでてきたナヴィの家にも行った。家の庭に、お嫁さんらしき方がいらしたので、話しかけた。すると、あの映画以来、大勢が見学に押しかけて大変なことになってしまったのだという。人のためと思ってやったことがかえって悪霊を呼んでしまったといって、おばあさんがストレスで寝込んでしまったらしい。私たちはそう言われると大変申し訳なくなり、そそくさとお詫びをして家を後にした。というわけで、どうか見学になど行かずにそっとしておいてあげてください。

朝にはあそこにいた。渡名喜島がはっきりとみえる。

奄美の与路島のような石垣
<そして夜はマグロパーティー>
夕方になり、浜までおくってもらうはずだった。しかし旅人のみなさんは話し合い、長谷川君も今夜泊めてあげようということで決まったのだそうだ。誠にありがたく、ご好意に甘えさせて頂いた。おまけにマグロのお刺身を満腹にごちそうになってしまった。こんなはずではなかったありがたいハプニングである。

キハダマグロか。たっぷり頂いて精をつける。
<覚えていてくれたら、それでいい>
4人の方たちは、司法書士の試験が終わり、息抜きに遊びにきて、偶然浜で私と出会った。彼らは知り合いの土木会社の建物の二階に泊まっていて、そこに招いてくださったのだ。私は、旅が無事に終わったらお手紙を送りたいと申し出た。しかしこう言われた。「いいや、長谷川君、その必要はないよ。旅の途中、こんな人達に出会ったということを君が覚えていてくれたらそれでいいんだよ」。いつか自分も誰かに言ってみたい、かっこ良すぎるセリフにに感動してしまった。

久しぶりに畳の上で眠る。建物とは心強いものだ。
テントのように雨や風を気にしないでいいとは
ほんとうにありがたいと思う。

夕焼けが島を染める
<南風やや強くなれど心は静か>
翌朝、なんと朝食におにぎりまでつくってくれた。ご親切に、すっかりパワーアップしてしまう。本当に何から何までお世話になってしまった。まるで行く先々をすべてお見通しの神様が、私を迎えるように人を使わしてくださっているのだろうか。
海はやや南風強し。髪の毛がばさばさいうほど。波もざばんざばんとうちつける。見た目にはちょっといやだった。迷いを払うため、胸のうちに問いかける。行くべきか否か。静かで暖かな反応がこだまする。そして行くべしと判断し、海へカヤックを浮かべた。お世話になった粟国島、4人の司法書士さんたち。ありがとうございます。これ以外言葉はみつからなかった。たとえ旅が終わろうとも、彼らに言われたように、こんな出会いを一生忘れないだろう。やがて後方の彼らの姿が小さくなる。意識を前進に集中していく。そしてまったく見えない伊江島をめざし、私は水平線へと邁進していった。

次回「伊江島へ」
この記事へのコメント
こんばんわ。
オリオンビールのくだり笑いました。
厳しい航海のお話の回も引き込まれましたが、
人との出会いもまた旅の醍醐味なんですね。
オリオンビールのくだり笑いました。
厳しい航海のお話の回も引き込まれましたが、
人との出会いもまた旅の醍醐味なんですね。
Posted by yamato at 2013年05月03日 00:19
yamatoさん
おはようございます。
一人旅のはずが、1人でいた事の方がすくなかったように思います。これも海への感謝を忘れなかったおかげです、きっと。
おはようございます。
一人旅のはずが、1人でいた事の方がすくなかったように思います。これも海への感謝を忘れなかったおかげです、きっと。
Posted by gon
at 2013年05月03日 07:50

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